第5章『うつ病という「終わり」──そして、「再起動」が始まった』

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第5章『うつ病という「終わり」──そして、「再起動」が始まった』

あのときの僕は、まるで世界から“透明人間”にされたようだった。

透明人間

──働けない。動けない。でも、息だけはしていた。

絶望のトンネル

開業後、相談は増えていた。でも、気がつけば、心と身体は、どんどん削られていった。

ある日、最後の面談が終わった後、心が折れたように感じた。完全になにもできない状態になった。その数か月前から、ストレスによる変調はあったものの、精神科で薬を処方してもらい、なんとか仕事を続けていた。が、このとき、「あっ、もうダメだ」と思った。

その後、実家で静養し、2週間に一度の通院の日々を送った。何もしたくない。今までできていたことが何もできない。ただただ、眠ってばかりいた。心とは脳であり、まさしく、脳が拒否反応を起こしているようだった。

“闘病”ではなく、“共に生きる”という感覚へ

うつ病は、敵ではなかった。それは、僕の中から出てきた、僕自身の声だった。「もう、頑張れない」「もう、無理だよ」「ちょっと、休ませてくれないか」それまで無理をさせてきた、心のどこかの自分が、叫んでいた。

そして、ようやく僕は、その声を聴いた。聴くことができた。闘うのではなく、共にいることを選んだ。

ただひたすら眠ってばかりのぼくだったが。

病気を経験して初めて、“他者の苦しみ”をより深く理解できるようになった

それまでも、相談者の話を真剣に聴いていた。でも、「うつ病になって、初めてわかったこと」がある。

・身体の痛みがあると、心まで削られること
・心の痛みは、身体の痛みを増幅させること
出口の見えない不安が、ただただ怖いこと
“気力がない”
というのは、怠けじゃなくて、“枯渇”なんだということ

たとえば、「仕事が手につかない」という相談者に、今ほど、共感的な態度が取れていたかは怪しい。でも、今の僕は違う。

「苦しかったですね」「いままで、すごくがんばってこられたんですね」「休むって、大きな勇気がいることですから」──そう言葉をかけるようになった。

病気は、すべてを奪ったわけではなかった。むしろ、人の心に近づく扉を開いてくれた。

休むことは、終わりではない。再起動(Reboot)のための、大切なプロセスなのだ。

ふたりで支え合ってうつ病は寛解した
第6章『それでも、ぼくは言葉を綴る』

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