
冒頭のドミノと『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の既視感── 連鎖装置としての「見ていて楽しい仕掛け」
冒頭、社長室いっぱいに広がったドミノが、
ある一点をきっかけに
一気になだれ落ちていく映像を見ていて、
ふと『バック・トゥ・ザ・フューチャー Part1』
の冒頭シーンを思い出した。
あの映画では、時計のタイマーを合図に、
ドッグフードの缶が自動で開き、
トースターや目玉焼きの装置が次々と動き出す。
仕掛けは違うけれど、
「ひとつのきっかけが、次の動きを呼び込み、連鎖していく」
という構造は同じだと思う。
連鎖そのものが美しくて、少しだけ怖い。
今回の「ドミノ」は、その感覚を視覚的に見せてくる装置だった。

ネクサーチ社長室のドミノが語るもの── 蝶のシンボルと「小さな一押し」の違和感
今回の『ドミノ』も、見た目だけならまさにそれに近い。
社長室いっぱいに並べられたドミノが、
蝶のシンボルを描きながら倒れていき、
やがて銃が火を噴く。
映像としてはかなり豪華な仕掛けだし、
番組スタッフの苦労は想像に難くない。
あの規模で最後まで美しく倒し切るのは、
素人の思いつきでどうにかなるレベルではなくて、
試行錯誤と微調整の塊だと思う。
そこには素直に敬礼したくなる。
だからこそ、
劇中で語られる「小さな一押し」の軽さが、
少し不思議な響きを帯びてくる。
PCのハッキングから電車の乗り遅れ、
花火大会の人混み、
PTSDのフラッシュバック、
歩道橋からの転落死、
そして検索アルゴリズムをめぐる成功と復讐へ。
右京は「バタフライ・エフェクト」や
「風が吹けば桶屋が儲かる」を引きつつ、
社長・関谷の最初の一押しが、
巡り巡って現在の惨事を生んだと指摘する。
ドミノ倒しと現実の因果のズレ── バタフライ・エフェクトと「一直線の物語」への違和感
本物のドミノ倒しは、
あれほど綺麗な連鎖を作るために、
人間が気の遠くなるような調整を積み重ねている。
世界は本当は、
あそこまで整った「一直線の因果」ではない。
偶然、環境、誰かの善意や弱さ、
ノイズのような出来事が、
いつも入り込んでくる。
現実の人生は、
ドミノのように完璧に並んでくれないし、
「誰か一人の最初の一押し」
だけで説明できる世界でもない。
それでも今回の脚本は、
ドミノという分かりやすい装置を通して、
因果関係を一本の線に
まとめ上げようとしていたように見える。
その結果として浮かび上がってきたのは、
「小さな一押しが大きな崩壊につながる」
というキャッチーなフレーズと、
実際の世界の複雑さとのギャップだ。
本物のドミノは、
人が必死に並べたからこそ、
気持ちよく倒れる。
現実の事件や人生は、
そこまで都合よく「設計」されてはいない。
この当たり前のズレが、
今回の『ドミノ』を観終わったあとに残る
モヤモヤの正体のひとつなのかもしれない。
丹羽と数原くんだけが持っていた“揺らぎ”── 罪滅ぼしから「待ってる」へ変わる感情の行き先
それでも、
副社長・丹羽と数原くんの関係にだけは、
ドミノでは割り切れない余白が残されていた。
罪滅ぼしから始まった面倒見が、
いつの間にか本気で才能に惚れ込み、
「待ってる」という一言に変わっていく。
その感情は、きれいな因果で説明するより、
むしろ揺らぎを抱えたまま
描かれていたほうが、
たしかなものとして胸に残る。
人生はドミノほど綺麗には倒れない── 今回の『ドミノ』が手渡そうとしたかもしれない感覚
完璧に設計された連鎖としてのドミノと、
思い通りに並んでくれない現実の世界。
その二つを並べて見せることで、
「人生は本当はドミノほど綺麗には倒れない」
という感覚そのものを、
視聴者に手渡そうとしたのかもしれない。
世界は、
そんな単純な一本線じゃないということを、
脚本は言いたかった、そんな気がする。

おわりに ——
今回の脚本は、
今年の元日スペシャル『フィナーレ』を書いた神森万里江氏。
あの元日SPは、2時間10分の超ロングラン、
登場人物も多くて、
過去と現在が複雑に入り乱れる”ラビリンス”だった。
放送直後は
「つまらなかった」「よく分からなかった」
という声がタイムラインに溢れた。
当時の自分も、リアルタイム視聴では全体像が把握できず、
TVerで三回見直してようやく細部まで理解できた。
この経験があったから、
「ドミノ」も最初は“薄い回”に見えたものの、
どこかにもう一段
深いレイヤーがあるはずだと感じていた。
丁寧に追いかけていった結果、
ドミノを「決まった因果の象徴」
として持ち上げておきながら、
最終的にはそのイメージをひっくり返す、
逆説的な使い方をしているのではないか、
という仮説にたどり着いた。
元日SPでラビリンスを何度も歩き直した体験が、
今回の「ドミノ」にも静かにリンクしている。
そう考えると、
神森氏の脚本に対して、
最初に抱いた印象よりずっと大きな敬意が湧いてくる。
氏への感謝ととともに、
次回の「神森回」も観てみたい、
そう思わせてもらった回だった。
👇️今年の元日スペシャル「フィナーレ」については、以前もう少し丁寧に書いています。
もしよければ、こちらもそっと開いてみてください。
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事件のざわめきから少し離れて、メガネを外してふぅぅ.....と息をつく
────そんな読後タイム...。