
まあ────っ!! あなたが悟空ちゃんね !! わたしがブルマのママで────っす !!
お酒でもめしあがれ
(ブルマ:こどもに酒をのますなっ!!)
んもう~~ 反抗期なんだから⋯⋯
出典:漫画『ドラゴンボール完全版』第5話 其乃六十九 ブルマと悟空part2/鳥山明・バード・スタジオ/集英社
いきなり、12歳の子どもにお酒を勧めたのは、ブルマの母ちゃんである。
未だに名前は不詳な”ブルマの母ちゃん” エピソードは、他にも盛り沢山だ。
今度、デートしましょうね。ね?ね?
この前、とっても、美味しいケーキ屋さん、見つけたの。悟空ちゃんのおかげよ。地球がなくなってたら、食べられなかったもの。
出典:アニメ『ドラゴンボールZ』第46話 悟空パワー全開!! 銀河の果てまで6日間/バード・スタジオ/集英社/東映動画
孫悟空はベジータとの激戦で負った大怪我から復活。ナメック星へ向かうため、カプセルコーポレーションを訪れた場面である。すでにこのとき、ベジータを上回る戦闘力を持った“フリーザの存在”を想起させられている、極めて切迫した状況だ。ましてや、ブルマも、ナメック星に滞在中で危険な状態だ。
ブルマの母ちゃんは、”どんな危機下でも恋やケーキのことを考えているお人 ”(出典:DRAGON BALL大全集第7巻キャラクター事典)であり、この空気の読まなさは、生死どころか、宇宙の存亡をかけた死地に赴くZ戦士にとって、ひとときのオアシスのような存在かというと、そうでもなさそうなところがまたイイ・・・突然話は横道に逸れるが。緊迫した場面こそ、ギャグ要素をぶっ込まずにはいられない鳥山明先生のマシリト(当時:集英社編集者:鳥嶋和彦。以下敬称略)に対する、ささやかな抵抗が垣間見えるのが興味深い。
鳥山明先生とブルマの母ちゃんの共通点
鳥山明先生の家庭について語られた逸話のひとつに、以下の印象的な言葉がある(※出典不明、Wikipedia等、ネット上で広く紹介されている)
家は貧しかったが両親共にのんびり屋の性格で、食べ物を買うお金がない代わりに、両親は二人でワルツを踊るような人だった
たしかに出典が定かではないが、この“お金がない代わりに両親がワルツを踊るような家”という話、”鳥山明”という人の世界観をより象徴的にしていて、私は大好きだ。ブルマの母ちゃんは、孫悟空をデートにお誘いしたシーンの前に、ダンスを踊っているのだが、この姿を見ると、もしかしたら、ブルマの母ちゃんのモデルは、鳥山明先生の母親なのかもしれない。勝手な想像。

カプセルコーポレーションは「心がほっとできる場所」
西の都のど真ん中にありながら、ブルマの実家(カプセルコーポレーション)は、どこかのんびりしていて、堅苦しさがない。一見、自由すぎて「こんな家が本当に地球で最も巨大な会社、あのカプセルコーポレーションなのか」と心配になるくらいだ。けれども、そこには心がほっとできる空気が流れている。
父であるブリーフ博士も、発明に夢中で、ブルマのやることに口出しする様子は見受けられない。孫悟空との初対面のとき、ブルマに対し、”で、お前たちは、キスくらいはしたのか。遅れとるのお”(出典:漫画『ドラゴンボール完全版』第5話 其乃六十九 ブルマと悟空part2/鳥山明・バード・スタジオ/集英社)と軽口を叩くくらいだ。16歳の娘と12歳の子どもに対しての言葉としては・・・ブルマの母ちゃんと同類だ。

CBT(認知行動療法)的視点から見たブルマ一家の親子関係
- 無条件の受容
ブルマの母ちゃんは、明るくて、ちょっと(かなり?)ズレた天然キャラ。でも“受容”のかたまり。どんな相手(捨て恐竜でも!)でも拒まない姿勢は「無条件の受容」に近い。ブルマに対して否定や批判を一切せず、どんな行動も「あらぁ~」といった感じで受け止めている。これは、CBT(認知行動療法)※ では「自己肯定感を育む環境」として”理想的な親のスタンス”とされている。だからこそ、ブルマが自分の好きなことに没頭でき、どんなに強気で我が道を行っても、自信を持ち続けられるのは、この“全肯定”の母の存在が大きいのかもしれない。
※ CBT(認知行動療法)とは、思考や行動のクセに気づき、心のバランスを取り戻す心理療法のこと
- 知的好奇心と創造性を尊重する家庭風土
ブリーフ博士は、自分の発明に没頭していて放任気味だが、叱るでもなく、コントロールもしない。これは 「自律性の尊重」といわれるものだ。研究者としての我が子の成長を誇らしげに見守っているような雰囲気だ。
子どもは失敗したとき、親に叱られると「また怒られるかも」と思って、だんだん挑戦しなくなる。でも、人は、自分が責められずにすむ場所があると、前を向ける。 ブルマの家庭は、そんな「責められない空間」を自然とつくっている。
セル編では、第2形態セルに停止寸前まで破壊されながらも、カプセルコーポレーションに運ばれた人造人間16号が、「おかしいなぁ、わからんなぁ」と嘆く、ブリーフ博士に対し「直らないのか」という問いかけに対し、「ブルマが戻れば何とかなる」と応えた(出典:アニメ『ドラゴンボールZ』第167話 視聴率100%!! 死を呼ぶセルゲーム独占生放送)。また、銀河パトロール隊員ジャコが乗っていた宇宙船の反重力装置について、わずか5歳のブルマいわく、「パパよりあたしの発想に近かったよ。アンテナがこわれていたでしょ?ついでになおしておいたよ」(出典:漫画『銀河パトロールジャコ』/鳥山明・バード・スタジオ/集英社)と、自律性を尊重されていたことが分かる。”人の能力は好奇心によって決まる”と知人から聞いたことがあるが、自律性が尊重され、好奇心によって挑戦し、成功体験を積み重ねていったのが、天才科学者ブルマその人なのだ。
これは、CBT(認知行動療法)的に見ると「自主性の支援」の典型とされている。子どもの自己決定感や問題解決能力を育てる土壌となり、ブルマのような“問題解決力の高い人間”が育つ背景として極めて示唆に富む。
- 家庭の“安全基地”としての機能
カプセルコーポレーションは、たびたび悟空や仲間たちが傷を癒し、再出発する拠点として描かれています。これ自体が、CBT(認知行動療法)における「回避ではなく、リカバリーを支える場」としての“安全基地”の機能を果たしている。
これはブルマの母ちゃんが、常に穏やかで、緊迫した状況の中でも浮世離れした明るさを保っていることとも重なる。つまり、家は、ストレスから避難できる「基地」であり、疲れた心が“戻って呼吸を整えられる”場所、すなわち ”心理的な避難所”として描かれているわけだ。

ブルマはどこで「自信」を身につけたのか?
彼女にとっての“安全基地”は家庭だった。どれだけ突飛なことをしても受け入れてくれる母親、人造人間や宇宙船の改造を任せてくれる父親。その家庭環境は、彼女に“試してみる自由”と“失敗しても帰れる場所”を与えていたのだ(事実ブルマは、サイヤ人が乗ってきたポッドを破壊した)
CBT(認知行動療法)的に見ると、「試行錯誤ができる環境」「過度な否定や批判がないこと」は、行動の強化・変容を促す重要な要素だ。ブルマ一家は、それを“自然体で”やっていたように見える。
重力室+タイムマシン発明「未来トランクス」
漫画『銀河パトロールジャコ』において、ブリーフ博士は、重力コントロール装置のライセンス供与を受けた。後にその技術を改造し、ベジータや孫悟空が修業に使う重力室や、宇宙船として活用されたことは言うまでもないだろう。そして、人造人間に壊滅された”未来”を救うため、生命を賭して発明した”タイムマシン” ブルマの姉や銀河パトロール隊員ジャコと共に住んでいた時空博士の権威によって開発中の ”50秒だけ時間を止めることができるタイムマシン” この技術があってこそ、ブルマは、タイムマシンを完成させたことは容易に想像がつく。そして、未来トランクスを過去に送り込むことに成功し(本来の世界線である未来世界では悲しい結末を迎えたが)地球を救うことになるのであった。後年、高校生となったトランクスが壊したパソコンを、まだ幼い、ブラが、またたく間に直してみせたように、ブルマの遺伝子は、娘のブラにしっかり受け継がれているようだ。「ブラのほうがよっぽど才能があるわ」とはブルマの言葉である。(出典:漫画『ドラゴンボール超第21巻』/鳥山明・バード・スタジオ・とよたろう/集英社)