
” メンタルはプレーに影響しない"
2024年、米メジャーリーグ「ロサンゼルス・ドジャース」に所属する大谷翔平(以下敬称略)のコメントだ。
青天の霹靂とは、こうゆうことをいうのだろう。シーズン開幕直後に起きた、世界中を騒がせた、あの「事件」により、いかに彼といえども、その野球人生に暗雲立ち込めると想像するに難くなかった。加えて、彼は、移籍したばかりという事情もある。
だが、大谷翔平のコメントは、私の斜め上を行くものだったのだ。
「メンタルがプレーに影響すると思っていない。しっかりとした技術さえあれば、どんなメンタルでも打てると思っている」
引用:中日スポーツ(2024年5月28日 )
驚きを隠せなかった。なぜなら、安定したメンタル、つまり、心が整っていて始めて、良いパフォーマンスが出せるもの、というのが私の認識であったからだ。
大谷翔平 初のワールドシリーズ制覇
「事件」があろうがなかろうが、シーズンは進む。
ロサンゼルス・ドジャースは、ナショナルリーグ西部地区で3年連続22回目の地区優勝を果たす。そして、地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズも突破し、リーグ優勝を決める。そして、舞台はワールドシリーズ。相手は、名門ニューヨーク・ヤンキース。延長戦にもつれ込むも、フリーマンのサヨナラ満塁弾で逆転し、ついに、ロサンゼルス・ドジャースは、4年ぶり8回目のワールドシリーズ制覇したのだった。
大谷翔平にとって、初のワールドシリーズ制覇。2年連続のMVP。そしてなにより、史上初のシーズン50本塁打、50盗塁の「50-50」という偉業を達成した。

だが、私の頭からはシーズン当初の大谷翔平の先のコメントが離れることはなかった。「本当にそうなのか」と。強がりなど言う男ではないはずだが。
その回答は、ベストセラーとなった書籍『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』に記されていた。
落合博満と大谷翔平の共通点

「心は技術で補える。心が弱いのは、技術が足りないからだ」
引用:『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』/著者:鈴木忠平・文藝春秋
落合博満が、荒木雅博に対して「言い放った」言葉だ。荒木雅博は、同僚の井端弘和(現・侍JAPAN監督)とともに、鉄壁の二遊間コンビを結成し、「アライバ・コンビ」と呼ばれていた。そして何より「守備者の最も栄誉あるゴールデングラブ賞」を6年連続で受賞している、まさに余人を持ってしてでも代えがたい選手。だが、プロ入り直後から16年経っても、自己不信が消えることのない、落合博満いわく「珍しいヤツ」だった。
荒木雅博のような名手ですら、自信のなさを抱えていた。だが、そんな彼に対しても、落合博満は、技術の積み重ねで心の揺らぎを克服させた。
それは、2004年シーズン後の彼の言葉からも分かる。
「今シーズンは、見たことのない打球が飛んでこなかった。そう、全部が北谷のサブグラウンドで、監督のノックで見た打球だった」
引用:【落合博満の視点vol.42】荒木雅博がひと言で表現した落合野球の本質とは 横尾弘一(野球ジャーナリスト)Yahoo! ニュース 2022/1/12(水)
そう考えると、大谷翔平の言葉――「メンタルはプレーに影響しない。しっかりとした技術さえあれば、どんなメンタルでも打てる」――は、決して“強がり”ではなく、トップアスリートとしての境地なのだと理解できる。
技術の裏打ちがあるからこそ、メンタルは揺らがない。
トップアスリートとしての境地

落合博満は、「人に好かれようと思ってたらこの仕事はできません」と述べており、自分の信じたことをやり続ける。いわゆる「オレ流」だ。すなわち、今まで良しとされてきた方法、「~すべき」「~でなければならない」という「べき思考」に縛られず、「前提を疑う」思考。事実ベースで、ありのままに物事を捉えていたことが分かる。これは、「自動思考の検証」と言われるものだ。
「自動思考」というのは、自動的に、反射的に、ふっと頭に浮かんでくる思考のこと。そして「自動思考の検証」とは、その浮かんできた思考を“そのまま信じない”で、事実や別の視点から見直してみること。
一言でまとめると… 自動思考は「反射的な言葉」「思考のくせ」。検証は「本当にそうか?と問い直す行為」
という意味で、大谷翔平の座右の銘とされる「先入観は可能を不可能にする」という言葉と、「オレ流」は同意義だと考えられる。
両者に共通するのは、他人や外の状況に左右されない「自分なりの軸」を持っていること。彼らの行動から学べるのは、自分の信念や価値観に基づいて選択をすることの大切さである。
私たちは、多かれ少なかれ、日々のストレスで、自分の心とどのように向き合えば良いか迷うことが多い。結果、心を病んでしまう人は珍しくない。そのためにも、今この時代だからこそ、「自動思考の検証」に向き合う価値は充分にあるだろう。
実は、「自動思考の検証」は、うつ病などの精神疾患の治療に効果的だと言われている「認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy。以下「CBT」)という。」という、トレーニングのひとつである。
思考のくせ(自動思考) | → 反射で出た「前提」 |
自動思考の検証 | → 「その前提、ほんと?」と問い直す |
CBT(認知行動療法)の力 | → 「別の可能性もあるよね」と柔らかく多視点へ |
オレ流マインド | → 他人のやり方に流されず、自分で立証し直す |
図解化すると、上記のようになる。
CBT(認知行動療法)は「心のトレーニング」
CBTでは「認知の再構成」や「価値に沿った行動」が重要視されるが、落合博満のぶれない精神、大谷翔平の淡々とした継続力――そこに通底するのは、「感情に支配されず、自分の価値に沿って行動する」という在り方に他ならない。スポーツと心理療法。一見、無関係に見えるが、実は、我々の日常にも応用できる学びが詰まっているのではないか。
そこで、本ブログでは、”CBT(認知行動療法)” 的な視点から、漫画・アニメ「ドラゴンボール」を中心に、ときに、スポーツやドラマ等のエンタメを題材として「心の整え方」について考えてみたい。