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『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』は、なぜ“約束”の映画なのか ── 和久さん、青島、室井、そして新城へ

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『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』は、なぜ“約束”の映画なのか ── 和久さん、青島、室井、そして新城へ


踊る大捜査線


劇場版第1作は、“大事件”ではなく“約束”から始まる


『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』は、
単なる劇場版第一弾と捉えると本質を見失いかねない。

もちろん、事件の規模は大きい。
副総監誘拐事件。湾岸署を襲う複数の事件。
TVシリーズよりも映画らしいスケールで、
物語は展開していく。

けれど、この映画で本当に重要なのは、
TVシリーズで描かれてきた
「本店と所轄」「会議室と現場」
「青島俊作と室井慎次の関係」
が、
映画という大きな器の中で、あらためて問い直されている。

そして、この作品には、いくつもの“約束”がある。

和久平八郎と吉田副総監の約束。
青島俊作と室井慎次の約束。
そして、新城賢太郎が
室井の側へ歩き出す、最初の小さな変化。

『THE MOVIE』は、後の
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』
『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』

室井慎次三部作『容疑者 室井慎次』『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』
へとつながる、映画側の起点でもある。


本店と所轄の格差は、弁当にも出る


『踊る大捜査線』らしさは、
組織の大きな問題を、
妙に生活感のある小ネタで見せるところにある。

たとえば、本店と所轄の格差。

捜査本部が湾岸署に設置される。
その中心に座るのは、本庁の捜査員たち。

一方で、場所を提供し、雑務を背負い、
走り回るのは湾岸署の人間たちだ。

この格差は、弁当にも出る。

本庁捜査員には、2,000円の幕の内弁当。
湾岸署の捜査員たちは、いつものキムチラーメン。

この差が、なんとも『踊る』らしい。

本店と所轄の距離を、
食事の差だけで見せてしまう。

その可笑しさの中に、
組織の冷たさが、しっかり混ざっている。


和久さんと吉田副総監の約束


踊る大捜査線

この映画で、もうひとつ重要なのが、
和久さんと吉田副総監の関係である。

和久さんは、現場で生きてきた刑事だ。
理想論を軽々しく語る人ではない。
正義という言葉の危うさも、現場の限界も知っている。

その和久さんが、
かつて吉田副総監と交わした思いがある。

和久さんは現場でがんばる。
吉田は上へ行って偉くなる。

ふたりは、同じ場所ではなく、
それぞれの立場から警察を支える道を選んだ。

一人は現場に残り、
もう一人は、組織を動かせる場所へ進んだ。

『THE MOVIE』で描かれるのは、
別々の場所を歩いてきた二人が、
もう一度その約束を確かめる場面でもある。


青島と室井の約束


青島俊作は現場から叫んだ。


事件は会議室で起きてんじゃない!
現場で起きてんだ!


この言葉は、青島にとって、目の前で人が傷つく現実だった。

一方、室井慎次は本店側にいる。
会議室にいる人間だ。
青島とは立場が違う。

ふたりは何度も衝突した。

現場を優先する青島。
捜査全体を見なければならない室井。

最初から、同じ考えを持っていたわけではない。

それでも、衝突を重ねる中で、
青島は室井を信じるようになり、
室井もまた、青島が現場で見ているものを知っていく。

『THE MOVIE』で描かれるのは、
その関係が、より大きな事件と組織の中で試される姿である。

青島は現場から室井を信じる。
室井は本店側から、青島を現場へ戻そうとする。

TVシリーズで育ったふたりの関係が、
劇場版では“約束”として動き始める。

だからこそ、『THE MOVIE』は重要だ。

TVシリーズで生まれた青島と室井の約束が、
映画の中でさらに大きな組織の問題として描かれていく。


新城賢太郎が変わり始める瞬間


この映画で見逃せない人物が、
新城賢太郎である。

『THE MOVIE』の新城は、
当初かなり本店キャリア側の論理で動いている。

学歴。
点数。
出世。
人事評価。


私はこれ以上 点数取らなくても上に行けます
長官が東大閥ですから
東北大でしたね 室井さんは
この辺で手柄を立てた方がいいんじゃないですか?
あなたのこれからのことを考えるとそうしたほうがいいんじゃないかな
入試で遊ばず死ぬほど勉強しておいてよかった


かなり嫌な言い方だ。

この時点の新城は、現場よりも評価を見ている。
人よりも、キャリア上の点数を見ている。
室井に対しても、同じ本店側の人間として冷たく接している。

けれど、終盤で新城は変わり始める。

現場へ向かおうとする室井に、
コートを差し出す。
そして、青島が負傷しても幹部たちが
気にかけない様子を見て、憤りを隠さない。


兵隊は犠牲になってもいいのか。


この言葉は、新城の中に生まれた亀裂である。

本店の論理で動いていた男が、
現場の人間を“兵隊”として扱う組織の冷たさに、
初めて引っかかる。

新城は、本店の論理を捨てたわけでもない。
それでも、自分が立ってきた側の冷たさを、
見過ごせなくなった。

『THE MOVIE』で描かれるのは、
新城賢太郎の中に、
これまでの価値観を揺らす疑問が生まれた瞬間である。

その小さな亀裂が、
後の新城の行動へつながっていく。


『THE MOVIE』は、後の室井慎次へ続く入口だった


『踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間!』は、
劇場版第1作でありながら、
後の作品群へつながる入口でもある。

TVシリーズで育ってきた関係が、
映画という大きな物語の中で、
初めてひとつの形を持ち始める。

和久さんと吉田副総監。
青島と室井。
そして、新城。

それぞれが別の場所に立ちながら、
現場を見捨てないために
何ができるのかを問われている。

この映画ですべてが解決したわけではない。

本店と所轄の距離も、
会議室と現場の断絶も、
組織の冷たさも残ったままである。

それでも、青島と室井の関係は次の段階へ進み、
新城の中にも、これまでの価値観を揺らす疑問が生まれた。

『THE MOVIE』は、
後の物語へ受け継がれていく、
いくつもの問いと約束が動き始めた映画だ。

そして、『踊る大捜査線』という物語が、
映画の中で次の世代、次の立場、次の責任へと進んでいく。

その始まりの一作なのである。




踊る大捜査線 THE MOVIE 湾岸署史上最悪の3日間! posted with カエレバ
副総監誘拐事件、青島の負傷、そして本店と所轄の断絶。劇場版ならではのスケールと、『踊る大捜査線』らしい軽妙さの奥で描かれるのは、世代と立場を超えて受け継がれる“約束”だ。

和久さんと吉田副総監。青島と室井。そして、変わり始める新城。

後の劇場版や『室井慎次』へ続く原点を、映像でもう一度じっくり確かめたい一作。




  • この記事を書いた人
藤次郎Tojiro

Tojiro


うつと約20年。話すよりも書くことが自然で、いつも言葉を綴ってきた。

子どもの頃から作文や日記が好きで、高校では論文で男子唯一の入賞。2004年からブログを書き、法務職として民間と官公庁の双方で文書を作ってきた。

家族の介護・看取りを経て、今は『相棒』『踊る大捜査線』、織田裕二さん主演作品を中心に、制度のひずみや、善意が無自覚に人を傷つける構造を読み解いている。

“空気”に流されず、“当たり前”とされていることを疑い、自分の頭で物事を考える力を養えるブログを目指している。

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