
『相棒 season24』 では、
瀧本智行氏が脚本を担当した 「カフカの手紙」(第9話) と
「町一番の嫌われ者」(第16話) の二つの物語が描かれた。
どちらも、ネット上では
「泣けた」「救われた」「やさしい回だった」
という声が多く、
映像と音楽が生み出す“あたたかい余韻”が印象的な回だ。
しかし、この二つを並べて見ると、
静かに共通している“物語の構造”
があることに気づいた。
そこで、今回は、
瀧本氏が担当した二つの物語を手がかりに、
その静かな構造を読み解いていく。
「カフカの手紙」──痛みの連鎖を前に、美談で包まれた物語
『カフカの手紙』は、
多くの視聴者に“救いのある話”として受け取られた。
たしかに、象徴的な手紙のやり取りは美しく、
映像の余韻も静かで、涙を誘う回だった。
しかし本来の核心である
**被害の二世代連鎖**
には、物語は深く触れない。
象徴として描かれた「声を覚えていた」という事実は、
救いのように示されている。
だが、現実には逆だ。
声を覚えていたことが、“さらなる地獄の始まり”になることがある。
親子関係の確定は、
相続・負債・遺品・戸籍・説明責任といった
重い現実の入り口になる。
物語はそこを語らず、
あたたかい余韻で静かに幕を閉じた。
その“語られなかった重さ”こそが、この回の痛みである。
そして、
この“語られなかった痛み”という構図は、
次に紹介する「町一番の嫌われ者」にも、
そのまま重なっていく。
👇️この回については、以前もう少し丁寧に書いています。
もしよければ、こちらもそっと開いてみてください。
🔗 関連:『相棒 season24 第9話「カフカの手紙」』を深く読む
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「町一番の嫌われ者」──排除の構造を語らず、美談へ収束した物語
町全体から排除されていた人物を描いたこの回は、
本来なら、この物語は、
──“対人支援職の倫理”が主題になりうるはずだった。
支援を名乗る者がどこまで踏み込み、どこで線を引くべきか──
その境界線こそが最も重要な問題だからだ。
しかしここでも瀧本氏は、
支援の世界で最も危険とされる“境界線の崩壊”
という核心には触れない。
そのため本来描かれるべき構造的な危険性は背景へと退き、
物語は静かな美談の余韻へとそっと着地していく。
右京のやさしい言葉もあいまって、
視聴後に「いい話だった」と感じる構成であるが、
その裏側には長年の孤独と、無意識の加害という
大きな痛みが存在したにもかかわらず。
この痛みは、物語の表面には現れることはない。
静かな余韻へと吸い込まれていく。
👇️この回が抱えていた背景については、
別の記事で少しだけ補足しています。
気が向いたら、そちらも読んでみてください。
🔗 関連:『相棒Season24 第16話「町一番の嫌われ者」』を深く読む
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二つの物語に共通する“脚本の構造”とは何か
どちらの物語にも“共通の設計図”がある。
それは——語られる物語の表面と、
語られない痛みの奥行きを、意図的に分離する構造だ。
- 背景の構造には踏み込まない
- 痛みの説明ではなく象徴でまとめる
- 終盤は美談的な余韻で収束させる
- 疲れた視聴者にやさしい仕上がり
- 現実の重さは表面化しないまま残る
これらは
優しさであり、同時に限界でもある と言えよう。
ですが、
それは決して否定すべきものではない。
相棒は夜9時のドラマだ。
多くの視聴者は、
仕事や家事を終えて疲れた心でテレビをつける。
そんな時間帯には、重い現実よりも、
“少しだけ前を向ける物語” が求められるのは自然なことだ。
制作側もそれを理解したうえで、
作品の“重さ”を
脚本家ごとに調整していると推測できる。
『相棒シリーズ』には、
重い現実を真正面から描く「鬱回」がある一方で、
救いのような空気を残す回も必要だ。
その両方で成り立っているといえる。
ただ、
現実では続いていく苦しさを見つめるかどうかは、
観る人の心の余白によって変わると思う。
願い
瀧本智行氏という脚本家は、
語られなかった部分に、
物語の鼓動をそっと忍ばせる。
その“余白の痛み”は、
登場人物の沈黙とともに読者へ手渡され、
視聴者の中で静かに息をしはじめる。
今回の記事は、瀧本氏の作風を否定するものではなく、
その“静かな語りの構造”をていねいに読み解き、
語られなかった声に目を向けるための、ひとつの試み。
沈黙に触れたとき、物語の奥で揺れていた微かな気配が
すこしだけ輪郭を帯びることがある。
その静かな変化が、ドラマの表情をそっと塗り替えていく。
そして──
その小さな気づきは、現実の誰かに向けるまなざしを、
ほんの少しだけ優しくしてくれるのかもしれない。
……今回は、ここまで。
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