
遭遇という違和感
相棒season3 第11話「ありふれた殺人」
警察署の前で、
男がうろついていた。
その様子に違和感を覚えた薫は、
声をかける。
「ちょっとあんた、何やってんの?警察に用事?」
警察手帳を見せると、
男は言う。
「あんた、刑事?」
「刑事だよ」
その瞬間、男の態度が変わる。
「あんた、刑事か!」
そう言って、薫の胸ぐらを掴んだ。
その動きは、
威圧というよりも、
どこか必死だった。
ようやく、つながれた。
そんな気配が、わずかに滲む。
「終わったはず」の始まり
薫は、その言葉を受け止めたまま、
警視庁へと向かう。
そして右京に連絡を入れる。
「20年前に人を殺した」と語る男の存在を。
その言葉は、過去の出来事を語っているはずだった。
だが、その“過去”は、終わっていなかった。
伊丹らの取り調べでも、
その男、小見山は「誰かに狙われている」
と繰り返すばかりだった。
薫は、思わず声を荒げる。
「遺族に謝罪する気はねーのかって聞いてんだよ!」
だが小見山は、
どこか他人事のように答える。
「そんなつもりだったら、20年も逃げなかったよ」
その言葉は、
罪を時間の中に埋めてしまった者の論理だった。
小見山は言い放つ。
「俺はもう罪人じゃない」
それは制度の中では
正しい言葉だった。
だが、その言葉が届く先にあるのは、
終わっていない時間だった。

見えない事件
当時の捜査によれば、
被害者・坪井里子には
目立ったトラブルはなかった。
その“何もなさ”こそが、
事件を見えなくしていた。
犯行は、あまりにも唐突だった。
家族が不在の時間。
小見山は何の前触れもなく侵入し、
そのまま里子を絞殺する。
そこに、特別な理由は見えない。
だからこそ、この事件は
“ありふれたもの”として
立ち上がってくる。
制度が守るもの、届かないもの

薫は、
時効の根拠に疑問を投げかける。
右京は、
制度としての理由を挙げる。
時間の経過による捜査の困難さ。
冤罪の可能性。
そして、
長い年月を良心の呵責とともに生きることが、
実質的な罰となる場合もあると語る。
「そんなもん、捜査側の都合ですよ」
薫は、そう吐き捨てた。
近くて遠い場所
その夜、薫は
遺族の家の前まで足を運ぶ。
だが、呼び鈴を押すことはなかった。
そのまま引き返す。
窓の内側では、
遺族の夫婦がその姿を見ていた。

過去は終わらない
そして、数時間後、
小見山は、何者かによって殺害される。
その手口は、20年前と同じ絞殺だった。
それは偶然なのか。
それとも、過去が、形を変えて現れたのか。
過去は終わっていなかった。
ただ、形を変えて、そこにあった。
できることの限界
被疑者となってしまった遺族夫妻。
右京は言う。
「いま、われわれにできることは、あの御夫婦の容疑を晴らすことです」
すべてを解決する言葉ではない。
だが、できないことが並ぶ中で、
唯一残された役割だった。

ありふれた殺人
やがて、真相が明らかになる。
犯人は、隣人の鈴木という男だった。
動機は、日常の苛立ち。
大音量のレコードに耐えきれず、
殺害に至った。
鈴木は、弁護士を目指していた。
司法試験の一次に合格し、
3ヶ月後には二次試験を控えていた。
法を守る側に立つはずの人間だった。
それでも、殺人は起きる。
法を学んでいた人間が、法を越える。
そこにあるのは、知識ではなく、
感情だった。
特別な動機ではない。
特別な人間でもない。
……それでも、起きてしまう。
壁一枚を挟んで、
大音量のレコードが流され続ける。
それがどれほどの負担になるかは、
想像に難くない。
まして、司法試験という
日本でも最難関の試験に向けて、
日々を削るように勉強していたとすれば、
なおさらだ。
ヘッドホンを使う、
あるいは引っ越すという選択もあったはずだ。
だが、そこまでの余裕が
なかったのかもしれない。
あるいは、
経済的にそれが難しかった可能性もある。
一方で、小見山は
「一か月ほど前から誰かに狙われている」
と語っていた。
二十年間、逃げ続けてきた焦燥。
そして、すぐ隣で膨らんでいく殺意。
それを、どこかで感じ取っていたのかもしれない。
終わった事件、残された時間
遺族の夫妻はニュースを見る。
鈴木の逮捕。
そして、小見山の映像。
だが、その男が娘を殺した犯人であることを、
二人は知らない。
テレビを切り、貞一は言う。
「よし、行くぞ」と。
事件は終わった。
終わっていない時間だけが、
残った。
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