
『相棒 season24』第15話 「他人の顔」……
この回を見たとき、胸の奥がざわついた。
なぜか。
このエピソードが描いていた核心は、
「誘拐事件」ではなく、
もっと静かで、もっと見えにくい ――
“支援の顔をした暴力(構造的暴力)”
だったからだ。
「悪意のある個人」よりも恐ろしいもの
今回のストーリーには、
- 子どもを守ろうとした母
- 近所を支えるママ友
- 支援活動を続けてきた男性
と「善良そうな大人たち」が並ぶ。
しかし、物語の中心にあったのは
誰か一人の“悪者”ではなく、
「善意のつもりの行動が、人を深く傷つける」
という構造そのものだった。
精神科医・松本俊彦先生は
著書『誰がために医師はいる』でこう述べている。
「支援という営みそのものが、ときに暴力になり得る」
「善意は加害性を免罪しない」
今回の『相棒』は、
まさにこの言葉を
そのままドラマ化したような内容だった。
- “保護”という名目で子どもを奪う
- “地域のため”という名目で放火が正当化される
- “守りたい家族”という名目で真実が隠蔽される
これらは、表面的には暴力とは見えない。
しかしその裏側には、静かで確実な破壊力――
「構造的暴力」
が潜んでいた。
「本人がそう言ってるなら、もうそれでいいじゃないですか?」
印象的な場面がある。
自分が誘拐された子ども=友里枝である可能性を前に、
北澤結衣が杉下右京に叫ぶ。
「本人がそう言ってるなら、もうそれでいいじゃないですか!」
これは心理学的には
愛着の防衛反応(attachment defense) に近い。
- 真実を知れば、自分が壊れる
- だから、今の“物語”を守らなくてはならない
そういう心の叫びだ。
対して右京は静かに、
しかし確固として言う。
「真実や正義は、個人の都合のためにあるわけではありません」
この対立は、
「個人の心理」と「構造の暴力性」の衝突
を象徴している。
どれほど本人が“そう思いたい”と願っても、
もし周囲の構造が暴力性を孕んでいるなら、
「知らないままでいること」は、時にさらなる傷を生む。
このシーンは、
ぼく自身の経験とも深く重なっていた。
ぼくが経験した「静かな構造的暴力」
ぼくは長年、うつ病・身体疾患・
そして医療機関での“構造的なズレ”に苦しんできた。
- 医師が毎回入れ替わり、治療歴が共有されない
- 心理士と医師の治療方針が連携されない
- 身体疾患が認知行動療法(CBT)に反映されない
- 相談すればするほど傷口が広がる感覚
誰か一人を責めたいわけではない。
だが、“善意で作られた医療構造”のひずみが、
確かにぼくを傷つけた。
松本俊彦先生の言葉を借りれば、
それは典型的な
「構造的暴力(structural violence)」
だった。
静かで、見えにくく、
誰の悪意もないのに、人を追い詰める力。
「静かな侵蝕」は、どこにでも潜む
今回の『相棒』は、
表面的には誘拐・殺人事件のドラマだ。
しかし深層では、
- 善意が暴力に変わる瞬間
- 正義が自己都合でねじ曲がる瞬間
- “守るため”という名目で破壊が生まれる瞬間
そして何より、
「支援の顔をした暴力は、本人には気づきにくい」
という残酷な構造を描いていた。
これは、
ぼくが経験してきた医療・支援の現場と
まったく同じ構図だった。
医療も、家族も、地域も、AIでさえも――
“良かれと思って”行われる行為こそが、
深い傷を残すことがある。
構造的暴力に気づくことは、救いにつながる
物語の終盤、
右京は加害者に言い放つ。
「あなたの流す涙など、もはや何の役にも立たない」
厳しい言葉だ。
しかしその厳しさは、
- 構造的暴力は、気づかなければ再生産される
- 大人の未処理の痛みが、次の世代を壊す
という現実に向けられている。
だから今回の『相棒』は、
ぼく自身にとって
“語る価値”がある回だった。
ぼくが書きたいのは「被害」ではない。
- 善意の暴力の構造
- 真実と向き合うことの意味
- 奪われた人生をどう取り戻すか
それらを、
自分の言葉で整理したかった。
松本俊彦先生はこう述べている。
「善意は暴力になり得る。
だからこそ、援助する側はつねに自らを振り返らなければならない。」
ぼくたちが向き合うべき相手は、
加害者ではなく「構造」そのものだ。
おわりに
ぼくは今日も、
傷ついた過去と、
いまの自分のあいだを行き来しながら生きている。
今回の『相棒』は、
そんなぼくの背中を静かに押してくれた。
「過去は変えられない。でも、これからどう生きるかは選べる」
そのメッセージを、
しっかり受け取りたいと思う。

ゆっくりと形を取り戻していく時間。
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