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相棒ラボ|相棒を、読む。『警察官B』前篇─絶望と悲しみと孤独の深淵から這い上がる少年の原点とは。

2025年11月4日

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相棒ラボ|相棒を、読む。『警察官B』前篇─絶望と悲しみと孤独の深淵から這い上がる少年の原点とは。

2025年11月4日


雪の降る公園

事件現場にいた“少年”とは何者か

野次馬に囲まれた事件現場。
その雑踏のなか、
段ボールを抱えた少年がいた──

彼の名は、高田創(たかだ・はじめ)。

だがそれは、法で認められた名前ではなかった。
彼には、戸籍がなかった。
つまり、法律上は“存在しない子ども”である。


絶望と孤独の原点――妹の死と埋葬


殺害された母親は、
出生届も婚姻届も出していなかった。

職業はホステス。
男性関係が奔放で、
まだ赤子の娘(妹)と
ふたりの息子を別々に住まわせ、男と会う日々。

創は、母から「ちゃんと妹の面倒をみるように」と言われていた。
年端もゆかない我が子に、
赤子の命を託すような、あまりに無責任な“育児”──
これはもう、育児放棄だった。


創が名乗っていた“名前”は、
別人のものだった。

予備校の塾生証に貼られた「山田学」という名を名乗り、
顔写真を自分のものにすり替え、
彼は“仮の名”で街を彷徨っていた。

食べていくために盗み、
寒さをしのぐため、
ゲームセンターに入り浸り、

(父親が違う)弟の面倒を見て、
母に見捨てられながらも、
日々を生き延びてきた創。


そんな中──
夜中に、妹の具合が急変する。
泣き叫ぶ妹。

どうすることもできず、
「朝になったら母のところへ連れて行こう」と思っていた矢先。
彼女は、静かに息を引き取った。

その小さな亡骸を、段ボールに入れて。
創は川原に向かい、自らの手で土を掘り、
静かに妹を埋葬した。

──そう、冒頭の事件現場で、
彼が抱えていた段ボールの中身。
それは、亡くなった妹の遺体だったのだ。

暗闇のリバーサイド

名前を持たない少年


無戸籍、貧困、ネグレクト、そして死別。
想像を絶する環境で、
それでも生きようとした少年。
右京は言う。


今、この国には、君と同じような人(無戸籍者)が、
潜在的に1万人もいると言われています


そして、右京は、創にこう語りかけた。


でも、もう充分、
役目を果たしてきたのではありませんか

苦しかったでしょう。
でも、もう充分だと想いますよ。
これからは、明日を生きていけませんか


右京が創に語りかけたこの言葉は、
裁くためのものでも、
ただ慰めるためのものでもなかった。

それは、「許可」
──心理学でいう
“心のブレーキを外す鍵”のようなもの。

「もう、がんばらなくていい」
「自分を罰しなくていい」
「生きていていい」
「幸せになっていい」

そんなメッセージが、
この言葉の奥にこめられていたのだ。

だから、右京の言葉は、
創だけでなく、
子ども時代のぼくにも向けられた言葉のように感じた。

子どものころ、
誰にも言ってもらえなかった言葉。

大人になった今でも、
自分に向けて言えなかった言葉。

「許可」とは、そうした“心の禁止令”に、
そっと終止符を打つもの。

右京の言葉は、
創の“生き直し”の始まりを優しく後押ししていた。

そしてそれは、
彼にとっての救いであり、
きっと、同じように
孤独や苦しみを抱えて生きてきた誰かにとっても、
かけがえのない“心の処方箋”になり得る。


けれど、
右京のやさしい“許可”の言葉に対し、
創は叫ぶ。


「果たしていない!果たせなかったんです!」



それは、自分を赦すことへの恐れと、
妹の死を抱えて生きてきた彼にとっての、
痛切な“心の反発”だったのだろう。

創にとって「妹を守る」ことは、
責任以上に、存在の意味そのものだった。

それを失った自分を、
「充分だった」と言われること。

それは、「もう妹と一緒にいなくてもいい」
と言われるようで……
創の心は、それに耐えられなかった──。


冠城亘の言葉――「就籍」という選択肢


やがて──
妹の遺体を、埋葬したのも、
特命係のふたりだった。

冠城亘は創に語りかける。
「戸籍を作る、つまり“就籍”という方法がある」と。

かつて法務省にいた冠城は、
就籍によって
人生をやり直した子どもたちを数多く見てきたという。


“仮の名”ではなく、“自分の名”として


優しさは、きっと届く。薄明かりのように、誰かの心を照らしていく。

創は、彼の勧めに従い、
ついに「高田創」という名前を、法的に得る。

“仮の名”ではなく、
“自分の名”として──。
その後、情状酌量により、創は不起訴処分になった。



この物語は悲劇で終わらない


この物語は、単なる悲劇では終わらない。
喪失の中で、ようやく手にした「名前」と「存在」の証明
これは、“再生”の物語なのだ。

※この物語は👉️『後篇』(「警察官B」──新世代の誕生を見届けて。少年Aの「今ここ」からはじまる物語)へ続きます

秋の読書
相棒ラボ|相棒を、読む。第3話「警察官B」後篇──新世代の誕生を見届けて。少年Aの「今ここ」からはじまる物語

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就籍(しゅうせき)とは、日本人でありながら何らかの理由で戸籍のない人(無戸籍者)が、家庭裁判所の許可を得て新たに戸籍を新設する手続きのこと。(戸籍法第110条、111条)



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  • この記事を書いた人
藤次郎Tojiro

Tojiro

子どもの頃、家でジャンプが出禁になっても、『銀牙』や藤子作品だけは読み続けていた。あの頃の“物語の匂い”が、ぼくの根っこをつくっている。 うつとの長い旅を経て、“こころの余白”の大切さを知った。いまはドラマ『相棒』を中心に、気持ちの揺らぎや、語られない沈黙、痛みのレイヤーを、そっと読み解いている。原点の作品を行き来しながら、人が立ち上がっていく物語を、静かに追いかけています。

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