「出雲の“あの一喝”がすべてだった気がする」
「創くんの成長がエモすぎて涙腺きた」
「鶴来さん……あれ、これ、相棒爆誕じゃないの?」
10月29日放送『相棒season24』第3話「警察官B」は、あらゆる意味で、“次の世代”を予感させるエピソードだった。初期からのファンは、創くんの登場だけで感慨深くなり、新規ファンは、謎解きミステリーとして手に汗握り、SNSでは出雲麗音の大声&“光る美和子スペシャル”に爆笑する──そんな“相棒らしさ”が詰まった45分。
けれど何より印象に残ったのは、出会ったふたりの“はじめ”。
高田創(たかだ・はじめ) × 鶴来一(かぐらい・はじめ)という新たなバディの誕生──
それは、右京と薫がそうであったように──かつてと未来をつなぐ、“次の相棒”のプロローグだった。25周年のセルフオマージュを通して、視聴者に静かに問いかけてくるような物語だった。
プロローグ:名前を与えられた少年──創という存在の始まり

テレビの前で、「創くん…!」と名前を呼びたくなった人も多いんじゃないだろうか。今回、登場した高田創は、ただの若手刑事ではない。彼は“特命係が育てた少年”──その成長の軌跡を、シリーズのなかでずっと描かれてきた特別な存在だ。
はじめて高田創が登場したのは、相棒season16 第19話「少年A」(2018年3月7日放送)──無戸籍のまま母に育児放棄され、幼い弟とふたりで社会の片隅で必死に生き延びていた。警察の手が差し伸べられたとき、名前さえはっきりしていなかった創。そんな彼に、初めて「高田創」という“法的に認められた名前”が与えられた。「高田創」と名乗ることができるように支援をしたのは、元法務省官僚の冠城亘だった。彼は、就籍届に関わっていたことがあるのだ。

あのとき、特命係は、創の存在を“見落とさなかった”。段ボールの中に横たわっていたのは、冷たくなった妹だった──。幼い弟をかばいながら、ひとりで命の炎を抱えていた少年。名前を持たず、国にも家族にも存在を認められていなかった彼に、「君は、ここにいていい」そう語りかけたのは、たしかに、特命係のふたりだった。
高田創の原点を描いた回については、こちらの記事もどうぞ:
👉 【前篇】相棒season24 第3話『警察官B』─絶望と悲しみと孤独の深淵から這い上がる少年の原点とは
-
-
🕵️【相棒24】第3話『警察官B』前篇─絶望と悲しみと孤独の深淵から這い上がる少年の原点とは
続きを見る
「警察官B」に再登場──新たな名を背負った彼の姿
そして、約7年の歳月が経った。無戸籍だったあの少年が、今──警察官になっていた(season23 第1話「警察官A~要人暗殺の罠!姿なき首謀者」)。それも、地域課の交番勤務を経て、ついに念願の刑事課配属となったのだ。「刑事になる」──それは、彼にとってただの職業選択ではない。かつて、自分が“少年A”として追い詰められたとき、そばにいたのは、警察官だった。杉下右京と冠城亘。ふたりの“刑事”がいたからこそ、彼は名前を持ち、生きる場所を得た。そして今、彼はその“刑事”として、同じ場所に立とうとしている。過去の自分と同じように、名もなき人を守るために──「高田創」という名前を背負って。

この第3話では、杉下右京と亀山薫が、彼を導こうとする姿が描かれている。かつて少年だった彼が、大人になり──“警察官としての責任”と“個人としての想い”のあいだで揺れながら、懸命に「生きている」のだということを、このエピソードは静かに、けれど確かに伝えてくる。
物語冒頭、創が特命係の部屋を訪れたシーンでの一言──「相棒が見つからなくて」このセリフは、ただの“人手不足”の話ではない。彼が“誰と組むか”ではなく、**“誰と心を通わせながら仕事をしていくか”**に、迷っていた証だ。右京と薫は、彼の悩みに“いつもの調子”で応じる。
薫「こんな変わった人、そうそういるはずねえんだから」
右京「いないと思いますよ、こんな変な人」
ふたり「(ニコッ)……いい意味で」
笑いを交えたこのやりとりの奥に、創が“心のどこかで求めていた相棒”のかたちが見えてくる。人は過去の苦しさを超えて、“誰かの希望”になれるんだというこのドラマの静かなメッセージに、こころが震えた。
右京&薫 vs 創&鶴来──“相棒”はバトンのように
「右京さんのような人、そうそういませんよ」
「変な人だけど……いい意味でね」
作中のこのやり取りは、もしかしたら、“相棒の条件”は、何かしら“変わっている”ことなのかもしれない──そんな予感をはらんでいた。
今回、高田創の“相棒候補”として登場したのが、警視庁総務部の鶴来一(かぐらい・はじめ)。読書好きで我が道を行くスタイル、妙な知識に詳しくて、感情より観察眼が勝る──まるで、若かりし頃の杉下右京を見ているようだった。
そんな“変わり者”なふたりが、終盤の人質事件で見せた 完璧な連携──打ち合わせもゼロ、咄嗟の判断で命がけの制圧に飛び込んだ。
創「僕たちは、お互いの危険より、市民の安全を優先しただけです」
右京「目的を共にすることで、自然と息が合った、ということですね」
この会話の静けさが、むしろ熱い。右京×薫が“築いてきたもの”を、創×鶴来が“自然に受け継ぎ始めている”。それが、今回の物語のいちばんの核心だったのかもしれない。
さらに、事件解決後の夜──お猪口を交わしながら、右京と薫が語る。
薫「アイツらなら、いい相棒になるんじゃないですか?ねえ 右京さん」
右京「そうですね。なれると思いますよ」
この“静かな乾杯”にこそ、『相棒』というドラマの“継承”があった。視聴者に見せたのはただの事件解決ではなく、新たな時代の“バディの夜明け”だった──そう感じた人も、きっと多かったんじゃないだろうか。
25周年に贈るセルフオマージュ──“踵”が語る継承
終盤、創が郷田に人質に取られる。そこに現れるのは、創の“相棒候補”である鶴来。彼は郷田に同調するふりをして、創を巻き込んだかのように振る舞う──。しかし、これは完全なる作戦だった。鶴来の合図に、創が一瞬で応じる。踵で足の甲を踏みつけ、包丁を落とさせる──
この一連の流れに、見覚えがあるファンも多かったはず。そう、これは『相棒~警視庁ふたりだけの特命係 pre season1 刑事が警官を殺した?赤いドレスの女に誘惑され…死体に残る4-3の謎とは?』で、右京の指示に従い、薫が踵で犯人を制圧した原点のシーンと“まったく同じ”演出だった。あの「相棒はじまりの物語」が、25年を経て、今度は“高田創と鶴来一”で再演された──これは偶然じゃない。“はじまりの構図”を、今ふたたび描くことによって、“新たな物語が始まった”ことを明言した演出だと思う。
さらに注目すべきは、今回のタイトル──**「警察官B」**という不思議なネーミング。「A」が創なら、「B」は誰なのか──見終えたあとに、ふと思い至る。
“鶴来こそが、創にとっての『相棒』だったんだ”
それに気づいたとき、タイトルそのものが、ふたりの未来を祝う暗号だったようにさえ感じる。
烈火の出雲、美和子スペシャル──“相棒ワールド”の余白たち
今作が“重厚なミステリー”と“新時代の幕開け”を描いていた一方で、息抜きパートも超充実。これぞ『相棒』の真骨頂。
まず語らずにいられないのは、出雲麗音の大爆発。
「我慢してたんだろーがよ!! 言い出した時には終わってんだよ…!!」
接近禁止命令を無視した男に、ド正論の鉄槌。“元・白バイ隊員”とは思えぬ烈火のブチギレに、捜査一課の伊丹、芹沢はもちろん、SNS界隈も大盛り上がり!
「狂犬出雲復活!」
「伊丹と芹沢、ビビってて草」
「久々にホンモノの雷が落ちた」
このセリフ、ただの怒鳴りではなく、後の事件の伏線として“香川の動機”とも重なる重要な一撃でもあった。
そして、言わずと知れたカルト的人気料理──**“光る美和子スペシャル弁当”**が、まさかの再登場🍱✨
薫「にゃろー、光る美和子スペシャル3回の刑だ…」
土師っち「(やったタダ飯!)※まだ何も知らない」
その破壊力にSNS界隈は震えた。
「あれが光るって、どういうこと!?」
「食べ物が発光するのはもう事件」
「タダより怖いものはない……」
まさに“ネタの宝石箱”といえる構成。重厚と軽妙のバランス感覚は、25年目を迎えた『相棒』だからこその芸当だと感じた。
相棒の継承は、静かに──けれど、確かに始まった。
新世代は、もう始まっている。右京と薫がそうであったように──鶴来と創の“相棒の旅”が、静かに動き出した夜だった。今回の物語は、事件解決やミステリーだけじゃない。**「25周年の節目に、“次の25年”への種を蒔いた回」**だったと思う。
最初の一歩を踏み出した創。そこに寄り添う鶴来。彼らの間に生まれた“相棒のリズム”が、この先どう育っていくのか──
このシリーズを見守ってきた“ぼくら”だからこそ、きっとこの物語に、ひとしおの感慨を覚えたんじゃないだろうか。
あとがき──「少年A」とわたし
今回、前後篇のブログを執筆するに当たって、相棒Season16「少年A」を視聴すること3度。それは単なる視聴ではなく、自分の内面と対話するための“授業”だったように思える。「少年A」こと高田創に自分の姿を投影していた。種類は違えど、彼の境遇に近いものが、ぼくにもあったからだ。右京と冠城の言葉に、自分の感情が映り込むたび、ぼくは物語の奥にある“人間の真実”を、そっと拾い上げていった。あれはドラマの中の話──そう割り切れない自分がいる。心の奥に残された“名もなき傷”が、画面の向こうから呼応してきた。だからこそ、何度も見返したくなった。だからこそ、ブログという形で、書き留めておきたかったのだ。
この物語は、たしかに高田創の物語だったけれど、同時に、ぼく自身の物語でもあった。痛みを抱えながら、それでもなお、誰かを信じたいと願う──そんな“今ココ”から始まる、ひとつの再生の物語。
関連するエピソードとして、こちらも紹介しておきたい。
👉️優しさ”というズレ:毒母の言葉と、ぼくの皆勤賞
-
-
“優しさ”というズレ:毒母の言葉と、ぼくの皆勤賞
続きを見る

名もなき人の名を守る、“刑事”として
──── Team I”s 制作班 あい