
成功なんかしなくていいよ
聖人君子にもならなくていい
毎日なんとか生き抜くこと
人を傷つけないこと 自分も傷つけないこと
ちょっとだけ余裕がある時は誰かに優しくしてあげるのもいい
そんなふうに生きて ほんの一瞬でも誰かの救いになれるんなら それだけで立派なもんだ
── 角田六郎がそう語ったシーンがあった。
誰かに向けられたその言葉が、まっすぐにぼくの胸に刺さった。
言葉ではなく「生き様」で響いた回──第7話『息子』
11月26日放送『相棒season24』第7話「息子」は、
事件の謎を解くドラマではなかった。
“なにを信じて、どう生きるか”を問うてきた。
支援を名乗りながら若者を縛る組織、
そして、それを真正面から受け止めようとした角田課長。
「ヒマ課長」が見せた“親のまなざし”に、
たくさんの視聴者が涙を流した。
そして自分もまた、そこに癒された一人だった。
「支援」という名の檻──卒業させない善意の暴力
省庁のオブザーバーという国の後ろ盾があり、
”弱者支援のスーパースター”長手健吾が築いた”帝国”
NPO法人『オオキナアイ』。
その実態は、耳障りのいいスローガンと助成金のもとに
若者たちを“出口のない檻”に囲い込んでいた。
画面に映った建物は、まさにホンマモンの“檻”だった。
外出も禁じられ、スマホは取り上げられ、自由はなかった。
そこにいた若者たちは、
ただ“助けられている”のではなく、
「卒業させてもらえない」状態にあった。
「永遠に支援しますよ」
──それはやさしさではなく、
“終わりなき依存”への誘導だった。
人は本来、“誰かの支援を経て、自立する”ものだ。
その過程にこそ、人としての尊厳と選択が宿る。
けれど「永遠に」と言った瞬間、
この“支援ユートピア”は、
自立を許さない搾取の楽園=ディストピアになった。
まさに“牢屋”だ。
その牢屋のカギを握っていたのは、
「愛」と「支援」という耳障りのいい言葉。
そして“税金”という金の雨。
まるで、制度と感情の両面から取り囲む、完璧なスキーム。
なにもこのスキームは、長手だけではい。
民間企業や教育産業にも「卒業させない」構造がある。
なぜなら、ずっと儲け続けられるから、“卒業”はさせたくないのだ。
民間スクール、サブスク商法、自己啓発セミナー……
いつまでも「あなたはまだ未熟」と刷り込み続ける構造。
長手のNPOと、構造的にまったく同じだ。
しかも、長手は“助成金”という税金のサブスクを得ていた。
“人格の剥奪”──逃げる自由さえなかった子どもたち
施設の窓には、木が打ちつけられていた。
逃げ出そうとする少年を救うべく、
里吉はペンチで、必死にこじ開けた。
脱出には「工具」が必要だった──
これはもう、施設ではなく“監禁空間”だ。
入ることはできるけど、出られない。
見守られているようで、常に監視されている。
そこでは、人としての“意思”が育たない。
人格の自由など、最初から認められていなかったのだ。
逃げた少年は、あの夜、命をつないだ。
それは、里吉が命を賭けて守った“自由”だった。
“全人類”という詭弁──右京の洞察と法的定義のズレ
右京が「弱者」の定義を問うたとき、長手が語った言葉。
「究極的には全人類が弱者なのです」
一見、壮大で理想に満ちているように聞こえるが──
NPO法人法(特定非営利活動促進法)をかじった身からすれば、
特定非営利活動とは、法で定められた20種類の分野に該当する活動であり、
「不特定かつ多数の者の利益に寄与すること」という定義に、
一応は沿っているように解釈できそうだが……。
でも、それは詭弁。
**「誰の利益にもならない構造」**を作っていた長手が、
この定義を都合よく使ったことで、
“支援”と“支配”の境界線が、逆にぼやけてしまった。
かつて、行政庁の担当者が、
「事業としての持続性が必要」と語っていたことを思い出した。
つまり、NPOといえど、“事業体”である必要がある。
そこに「返さなくていい助成金」が絡めば──
制度を“良いことに使う”か“搾取に使う”かは
────結局その人の良心に委ねられる。
命のバトン──里吉が残した「未来への願い」
「オヤジと一緒に捜査するんだ」
「いつか俺みたいなガキを見つけたら、あの店に連れていってやるんだ」
──彼が遺した手紙には、「生き抜く希望」が詰まっていた。
潜入捜査ごっこ、安い中華、ちょっとした会話。
角田課長との日々が、彼にとっては“家族”だった。
だからこそ、未来へ繋ぐために、
自分のなかにあった“支援”を、命懸けで渡した。
それは、自称支援者・長手には決してできなかったことだ。
右京がくれた“許可”──その人生は、立派だった
「立派な人生でした」
「彼の勇気ある行動で、事件は解決しました。たくさんの人が救われたんです」
右京のこの言葉が、あまりにも温かかった。
「自責の念に苛まれていた」角田六郎が、
ようやくひとつの“癒し”にたどり着いた瞬間だったのかもしれない。
そしてその言葉は、観ていたぼく自身にも、深く染み渡った。
許すことで、自由になる──ヒマ課長がくれた“最後の支援”
「終わらせない支援」は、もう“支援”じゃない。
それは、“支配”に名前を変えただけだ。善意という名の暴力に。
そして、自分自身の罪悪感や無力感にも。
でも、この物語の中で、ひとつの“卒業”があった。
それは、里吉くんが命懸けで誰かを“自由”にしたこと。
そして、角田課長が、自分をも“許した”こと。
誰かを支えるってことは、
支える側もまた“自由になっていい”ってことなんだ。
ヒマ課長の「あいつ よくやったよな....。」という言葉が、
ぼくにとっても、ひとつの“許可”だった。
──このブログも
誰かの檻をそっと開けられる、そんな文章でありますように。

──── Team I”s 制作班 あい
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